ベートーヴェンが最も愛した作品は交響曲第3番!?≪英雄/エロイカ≫は逸話だらけ!?

ベートーヴェンの交響曲第3番≪エロイカ≫はクラシックが好きな人ならきっと聴いたことがあるでしょう。

副題は≪英雄≫で知っているかもしれませんね。

 

この交響曲にはたくさんの逸話が残されています。

残念ながら未だに「○○が絶対に本当!!」という確証はないのですが、それでも当時の背景は推察することができますよ!

ベートーヴェン/交響曲第3番の基本情報

作曲家:ルート・ヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(ドイツの作曲家)

作曲時期:1803-1804年 ※1770年生まれのベートーヴェンが33-34歳の時の作品。

※作曲場所※ハイリゲンシュタット(オーストリアのウィーン)

初演:1804年12月(非公開初演)/1805年4月7日(公開初演)

楽章構成:4楽章 構成

演奏時間:約50分程度

献呈先:ロプコヴィッツ侯爵

副題:「エロイカ」「英雄」(ボナパルト交響曲)

ベートーヴェンが交響曲第3番を作曲した理由は?

結論から言うと、・・・結局わかりません(笑)

「分からないんか―いっ!!」というツッコミが聞こえてきそうですが(笑)、文献などもありますが、信憑性などに欠ける部分があるので仕方ありません…。

 

しかしながら、定説が2つあるのでそちらを紹介していきますね!

交響曲第3番作曲の理由①自らがナポレオンを称えるために作曲した

最も有力とされている説は皆さんも知っているかもしれませんね。

ベートーヴェンがフランス革命で英雄となったナポレオンを称えるために作曲した、という説です。

 

つまり、”自発的に”ベートーヴェンの意志で作曲した、ということですね。

現在ではこれが最も有力とされています。

交響曲第3番作曲の理由②ナポレオンを称えるために依頼されて作曲した

次に有力なのが、少しニュアンスが変わるのですが、ナポレオンを称えるために”依頼されて”作曲した、という説です。

先ほどと違うのは、自発的ではない、というところですよね。

 

では、誰が依頼したのか。

それはウィーン駐在のフランス公使であったベルナトッド将軍です。

 

ちなみにベルナトッド将軍はナポレオンの親戚にあたる人物なので依頼をしてもなんら不思議はないわけです。

ベートーヴェン/交響曲第3番作曲の副題に込められた意味

この交響曲第3番には一般的にエロイカ≫≪英雄≫のどちらかの副題で知られています。

ちなみにエロイカはイタリア語で≪英雄的な≫という意味を持つので日本語かイタリア語か、ぐらいの違いで意味は一緒ですよ。

 

もしかしたら玄人のあなたは「ボナパルト交響曲」という言葉も知っているかもしれませんね。

これはナポレオンの名前である「ナポレオン・ボナパルト」から拝借した名前で、最初は『英雄』ではなく、ボナパルト交響曲という名前にするという案もあったそうです。

 

作曲の理由は定かではないないものの、交響曲の名前にナポレオンの名前を入れようとしている時点でベートーヴェン的にもかなり好意的であったことは伺えますよね。

他にもウィーン楽友協会(ベートーヴェンだけでなく様々な歴史的楽譜や資料を保管している団体)に現存してある楽譜の表紙には「SINFONIA EROICA」(シンフォニア・エロイカ)と書かれた楽譜があるので、この副題はベートーヴェン自身がつけたことも明らかになっています。

※副題の中には作曲家自身がつけていないものもあります※

ベートーヴェンは交響曲第3番作曲後にナポレオンにブチ切れた!?

さて、ここまではベートーヴェンがいかに好意的にナポレオンを思っていたのかがわかりますが、作曲後に実は事件があったという説が出ています!

 

「ボナパルト交響曲なんて名前にしてやるか事件」です!

↑↑太字で大切そうに見えますが、筆者が勝手に命名してるだけでこんな事件名は存在しません(笑)

 

話はフランス革命に戻りますが、市民がそもそも革命を起こしたのは貴族の権力社会を壊すためですよね?

そこで大活躍したナポレオンは平たく言えば、庶民の味方だったわけですよね?

 

実はベートーヴェンの生い立ちとして、父親は飲んだくれだったので若い頃からピアノの教師などをして一家の家計を支えなければならず、非常に苦労した生活をしていました。

余計に庶民が経験することのない貴族の豊かな暮らしぶりには昔からずっと疑問があったわけです。

 

そんなベートーヴェン”だから”、ナポレオンに強く惹かれたのでしょう。

ナポレオンならこんな不平等な世の中を変えてくれるかもしれない、自由な世界を作ってくれるかもしれないと。

 

自由な世界というのは生活だけの話ではありません。

当時、作曲する音楽も貴族が楽しめる音楽でなければならなかったのです。

 

音楽はそもそも庶民(大衆)が聴くものではなく、貴族が聴くものだったからですね。

だから貴族がNoと言えば、Noなのです。

 

交響曲の形式の中で新しいことをすることがいかに難しく冒険的であったか、ということからも伺えます。

その事実を裏付ける記事はこちらをご覧ください↓↓

『ベートーヴェンの交響曲第2番の重要性を徹底解説!!ハイリゲンシュタットの遺書に込められた真の想いとは!?』

 

ベートーヴェンは大衆・庶民という考えにそれだけ敏感であったと想像がつきます。

それなのに、そこまで期待していたのに、ナポレオンはフランス革命のあと、まさかの自ら皇帝の座につきました。

 

・・・ベートーヴェンは「話が違うじゃないか!!!」と激怒したわけです。

そして、最初は「ボナパルト交響曲」として献呈しようとしていた楽譜の表紙を↓↓

ぐちゃぐちゃっとペンか何かで破ってしまいました(笑)

そして「エロイカ・シンフォニア」という名前で献呈したわけです。

 

これが通称「ボナパルト交響曲なんて名前にしてやるか事件」説です(笑)

ベートーヴェンの気持ちから考えると気持ちはよくわかる気がしますよね。

 

しかし、ベートーヴェンは大衆のための音楽を作ることを諦めなかったのです。

この話はまたいずれ・・・!!

ベートーヴェンが交響曲第3番で変えた音楽的変更点は?

1817年に詩人クリストフ・クフナーがベートーヴェンに「自分の作品で最も出来が良いのどれですか?」と質問しました。

それに対してベートーヴェンは『エロイカ』(交響曲第3番)と即答しています。

 

1817年は交響曲第9番を作曲している時期なので日本では最も有名であろう交響曲第5番≪運命≫や同時に作曲された≪田園交響曲≫があるにもかかわらず、です。

それだけベートーヴェンの想いが強く愛していた作品ということですね。

 

そこにはそれ相応の理由があるはずなので音楽的に何が画期的だったのかを解説していきます。

曲自体のスケールの拡大(曲の長さ)

基本情報にも記載しましたが3番は約50分にもなる大曲でした。

当時の交響曲は30分前後が基本でした。

 

実際、交響曲第1番は30分に満たない演奏が多いですし、長くなった交響曲第2番でも35分程度でした。

スケルツォの楽章など短めの楽章もありますが、平均して一楽章約7-10分程度だと考えても5楽章分あるような長さということですね。

 

つまり、それまでの交響曲とはスケールの大きさが根本的に違うということをアピールしていたことが分かります。

楽器の使い方

・チェロとコントラバスの独立

交響曲第2番の時に試したチェロとコントラバスの独立した使い方に関しては効果があると判断したのでしょう。

3番でもその使い方を利用していますよ。

 

やはり、実験をしたからこそ自信を持って使えるベートーヴェンの強みですよね。

・ホルンを3本使用

現在のオーケストラの曲のほとんどはホルンは4本が基本になっていますが、古典の頃の音楽は基本的にホルンは2本だけ使用されています。

ベートーヴェンも例にもれず基本的に2本でした。

 

これは交響曲第1番や2番に限らず、この後の第4番や第5番も2本です。

特殊ではありますが、この交響曲ではホルンを3本使用しているのですね。

 

もちろん理由があります。

これまでのトランペットやホルンの使い方は今のようにメロディを吹く楽器でなく、信号ラッパ的な使い方や通奏低音と言われるハーモニー楽器としての役割が基本だったのです。

 

しかし、ベートーヴェンはホルンの音色を聴いて、「これはメロディに使えるんじゃないか」と考えたのです。

そして曲の中でホルンのトリオ(3重奏)をメロディをして初めて使用しました!

 

特に3楽章が有名ですが、1楽章でもこっそり3重奏があるのをご存じですか?

その部分の最初が【7:53-8:03】(楽譜の上から5段目)。

ここではホルンのソロとして、まずメロディ(モチーフ)を印象付けています。

 

そして【12:15-12:35】(楽譜の上から5段目と6段目)のところで先ほどと同じメロディを徐々にホルンを重ねて交響曲の中でホルンの3重奏を実現しました。

 

<3楽章>

お次はこちら→【32:47~33:05】(楽譜の上から5段目と6段目)

こちらが分かりやすい3重奏部分でとっても美しいトリオですよね。

たった2小節の序奏(1楽章)

第1番と第2番を知っている人からすると当時の聴衆は始まって早々に驚いたことでしょう。

ベートーヴェンは第1番は1分強、第2番では2分を超える序奏が用意されていました。

 

序奏の長さの比較は『ベートーヴェンの交響曲第2番の重要性を徹底解説!!ハイリゲンシュタットの遺書に込められた真の想いとは!?』をご覧ください。

それが序奏がたった2小節、しかも1小節1音だけなので、2小節でたった2音だけなのですから。

 

しかも、たったその2音だけで英雄らしい音楽だと感じることができるという素晴らしさったら…。

男は多くを語らないとはこういうことを言うのかもしれません!

意表をついた葬送行進曲(2楽章)

これもベートーヴェンならではの発想ではないでしょうか。

葬送行進曲と言われている2楽章の存在はどれだけの人が度肝を抜かれたでしょうか。

 

それまでの2楽章は歌曲風の音楽が2楽章に来ることが当然でした。

つまり”また”その型を破壊したのです!

 

英雄らしい華々しさだけでなく、フランス革命で命を落とした市民への労いや苦悩などを音で表現する様は、聴覚を失うことで死をも覚悟したベートーヴェンだからこそ書くことができた音の厚みがあります。

ただ、聴衆たちはベートーヴェンのそんな苦悩を知ることもない…というのがまた切なくなりますよね。

真価が発揮されたスケルツォ楽章(3楽章)

2楽章の時に実験的に楽譜に記載したスケルツォ。

曲の形としてはおそらく第1番の時から模索を続けていたのだと考えられます。

 

そして、ついに第3番でホルンのトリオを取り入れたうえで完全に自由なスケルツォの楽章を完成させました。

聴衆はホルンのトリオの音色に「あれは何の楽器だ!?」と驚いたに違いないでしょう。

十八番のプロメテウスを使用したフィナーレ(4楽章)

4楽章にはベートーヴェン自身が作曲した『プロメテウスの創造物』のFinaleで使われている素材と『エロイカ変奏曲(創作主題による15の変奏曲とフーガ)』をそのまま4楽章に混ぜて変奏曲にしています。

 

『プロメテウスの創造物』は1800-1801年に作曲したバレエ音楽の1つ(※バレエ作品は2つしか作っていない)。

『エロイカ変奏曲』は、1802-1803年に作曲したピアノ曲で『プロメテウスの創造物』のFinaleを使用しています。

 

そして、4楽章はピアノ曲ある『エロイカ変奏曲』のいくつかをオーケストラ用に書き換えて新しく4楽章にしたという流れです。

そのようにして精巧を重ねて出来上がった4楽章が素晴らしくないわけがありません!

 

ちなみに『プロメテウスの創造物』は最近序曲だけで演奏されることはあるものの全曲演奏されることは少ないです。

序曲だけ聴いてもその素材は分からないので比べたい方は下記の動画でどうぞ!

 

『交響曲第3番/4楽章』
※『プロメテウスの創造物』の素材と一致してわかりやすいのは【1:57~】)
※『エロイカ変奏曲(創作主題による15の変奏曲とフーガ)』は最初から4楽章と同じです。

『プロメテウスの創造物/バレエ全曲』(【29:20~】からFinale)

『エロイカ変奏曲(創作主題による15の変奏曲とフーガ)』

ベートーヴェンの交響曲第3番が大成功した理由は!?

ベートーヴェンの想いが通じたかのように交響曲第3番の演奏後はかなりの評判でした!

第2番の時に厳し~い評価だっただけに本人も不安があったかもしれませんよね。

 

でも、成功にはやはり理由があるのです。

それは大きく2つ考えられます。

音楽史における画期的な音楽の誕生

当時の音楽史における画期的な音楽を誕生させた・・・もうこれに関しては言わずもがなですよね。

ベートーヴェンが第1番と第2番で実践してきた実験と経験を活かせたことは言うまでもありません。

 

この結果、生まれた音楽はハイドン風やモーツァルト風だと言われ、「ベートーヴェンは○○の影響を受けているよね」という意見から”ベートーヴェンの音楽”を作り出したことにもなりました。

だから当時の時代ではなく、古典派からロマン派の変わり目という現代から見た音楽史的にも語ることが欠けてはいけないほどの作品になったと言えます。

音楽を聴く聴衆自体が変わった

最も大きな理由が社会の構造が変わり聴衆自体が変わったことでしょう。

フランス革命により、聴衆が貴族がだったものが、一般聴衆が聴くようになりその力が強くなった、ということ。

 

交響曲第2番な過去の例を見てもそうですが、どれだけ画期的なことをしても受け入れられなければ敬遠され変人扱いされて終わりです。

この変化はベートーヴェンの音楽を救ったとも捉えられますよね。

ベートーヴェン/交響曲第3番のおすすめ音源

正直、交響曲第3番はたくさんの名演がありますが、今回はロリン・マゼールが指揮したエロイカをおすすめ音源にします。

理由は一つ。非常に指揮が綺麗で分かりやすいからです。

 

実はこの曲は分かりやすく指揮をしながら音楽的に振るのがとても難しい1曲。

それを見事にこなしているので、さすがロリン・マゼールという感じですね!!

指揮者ーロリン・マゼール
オーケストラーPhilharmonia Orchestra

”ベートーヴェンが最も愛した作品は交響曲第3番!?≪英雄/エロイカ≫は逸話だらけ!?”まとめ

第9番はまだ完成してなかったのでそれを含むと分からないですが、それでもベートーヴェンがなぜ交響曲第3番『エロイカ』(『英雄』)を最も愛したのかはわかる気がしますよね。

このような偉業を成し遂げた人たちは共通して言えることが決して諦めないということ。

 

しつこいようですが、ベートーヴェンは貧乏でも不平等でも、作曲家なのに耳が聴こえなくなってしまっても音楽を作ることが自分の使命だと疑わず、諦めなかった。

だからこそ、まるで時代がベートーヴェンを味方したようにも見えます。

 

そんな力強い交響曲第3番を聴いてぜひあなたも力をもらってくださいね!

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